備忘録 清算型遺贈型の公正証書遺言と付言事項の効力

相続

  遺言書の中で、遺言執行者が相続財産の特定不動産を売却換価し、その売却代金を相続人に遺贈するという旨を定めたものを清算型遺贈と言います。

 このような事項が遺言書の中で記載されていた場合、遺言執行者は単独の権限で不動産を売却できます。登記手続きも相続人に代わり、相続登記、買主への所有権移転登記の申請人となることができます。相続人間に溝がある場合にもスムーズに遺言者の意思を実現できます。

 先日、とある不動産会社様から遺言執行者が不動産を売却し、お金を分けるという公正証書遺言があるが、遺言執行者が売買契約の売主当事者になり登記手続きも単独でできるか、というご相談がありました。 真っ先に清算型遺贈のことだなと思いましたが、遺言書の文面をしっかり見ないと判断できません。とりあえず遺言書の写しを送ってもらいました。

 その遺言書には本旨中に「甲不動産はA,B,Cへ3分の1の割合で相続させる」と記載があり、付言事項に「甲不動産については、遺言執行者において売却換価し、その代金をA,B,Cに3分の1ずつ分けられたい」と記載がありました。

 付言事項とは、残される相続人の方に遺言者の気持ちや思いを記載するところで、一般的に法的効力がないとされています。しかし、今回の遺言書では付言事項欄の記載に不動産売却の件が記載されており、これが認められないとすると、遺言者の意思が実現されない可能性があります。

 遺言書の解釈ついては、遺言者の意思をできるだけ実現しようという趣旨から、 「遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探求すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出し、その文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況なども考慮して遺言者の真意を探求し、当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。」との判例(最高裁昭和58年3月18日)があります。

 上記の最高裁の判例を盾に、本遺言書をもって遺言執行者が単独で登記手続きができるか管轄法務局に照会したところ、結論はNGでした。付言事項中の記載では明確に遺言執行者へ売却換価権限が与えられているとは言えないとの判断でした。

 勝手な私見ですが、①先にあげた判例より、遺言書は遺言書の「全記載」から遺言者の真意を探求し、当該条項の趣旨を確定すべきこと②清算型遺贈は手続き選択の問題にすぎず、いずれにせよ相続人の取り分は本旨で定めた割合が確保されること

を考えると今回の法務局の判断には納得いかない部分があります。

 また、今回の遺言書は公正証書遺言で作成されておりました。そもそも最初から清算型遺贈の文言を本旨に記載していればこのような問題は発生しなかったのですが、公証人の先生が何故そのような大事なこと付言事項欄にもってきたのか甚だ疑問でした。

 このようなことがないように、遺言書の作成においても専門家を入れて作成されることをお薦めします。